留守番で吠える犬——しつけより先に、飼い主が変えられることがある

「うちの子、お留守番させると吠え続ける」「帰ったら部屋がめちゃくちゃになってた」「下痢してた」——そういう話を、私はたくさん聞いてきた。

ほとんどのケースで最初に確認することがある。飼い主自身が、お出かけ前にどんな行動をしているか、だ。

分離不安は、犬の問題ではなく関係性の問題かもしれない

「分離不安=犬がひとりでいられない問題」として捉えられることが多い。でも研究の蓄積は、少し違う方向を示している。

Journal of the American Veterinary Medical Association(2021)に掲載されたレビュー論文は、「過剰な愛着が分離不安の原因」という長年の仮説に疑問を呈し、飼い主の愛着スタイルが犬の分離不安に予想以上に大きく関与している可能性を示した(⁶)。Frontiers in Psychology誌(2017)の研究では、不安傾向の高い飼い主の犬は、ストレス場面で飼い主への依存度が高くなる傾向があることが示された(⁷)。さらにScientific Reports誌(2021)の研究では、飼い主の一貫性のない対応が犬のフラストレーション閾値を下げる可能性が示されている(⁸)。

つまり——犬の分離不安を「どう直すか」を考える前に、「この犬と飼い主の関係性に何が起きているか」を見ることが先決だと思っている。

「行ってきます」の前に、何をしているか

分離不安のある犬の飼い主に共通して見られる行動がある。出かける前に長い時間をかけて撫でる、「すぐ帰ってくるからね」と声をかけ続ける、玄関でぐずぐずする——これらはすべて、飼い主自身の不安が行動として出ている。

犬はそれを読む。Polyvagal理論でいうニューロセプション——意識より先に安全・危険を感知するプロセス——が、飼い主の緊張を「何か良くないことが起きる」というシグナルとして処理する(Porges, 2011)(¹)。飼い主が「大丈夫だよ」と言いながら不安な顔をしていれば、犬の神経系はその言葉より顔と匂いと声のトーンを信じる。「行ってきます」の儀式が長く、感情的であるほど、犬の神経系は「これは大事な出来事だ」と学習していく。

「いい疲れ」を作ることが先だ

分離不安の対処として語られることの多くは、「ひとりでいる練習」だ。少しずつひとりの時間に慣らす、クレートトレーニングをする——これは間違いではないが、前提が抜けていることが多いと思っている。

犬の神経系が「安全」を感じていない状態でひとりでいる練習を積み上げても、練習になっていない。ただ不安を繰り返しているだけだ。先に作りたいのは「いい疲れ」の状態だ。身体的な疲れではなく、神経系が充足した状態のことを指している——嗅覚をたっぷり使った散歩、固有受容感覚への刺激(凸凹した地面・傾斜・自然地形を歩くこと)、頭を使うトレーニング。これらが揃った後の犬は、ひとりでいることへの耐性が全然違う(詳しくは「散歩で引っ張る犬」の記事を参照してほしい)。

「分離不安をどう治すか」ではなく、「ひとりでいられる犬の状態をどう作るか」。出発点が変わると、アプローチ全体が変わる。

飼い主から変えられることがある

これは責める話ではない。犬を心配するのは愛情の表れだし、それ自体は何も悪くない。ただ、その愛情の表現の仕方が犬の神経系に与える影響を知っておくことは大事だと思う。

今日から一つだけやるとしたら——帰宅したとき、犬が落ち着くまで挨拶しない。これだけでいい。

具体的に変えられることがある

出かける前:

出発の10〜15分前にノーズワークや短いトレーニングで「いい疲れ」を作る。玄関での別れを短くする。声をかけるなら一言だけ、淡々と。「バイバイ」と言ってすぐ出る——それだけでいい。何も言わなくてもいい。大事なのは短さと一貫性だ。

出かける時:

感情的なお別れをしない。犬が落ち着いている状態で出る。大げさに出かけると、大げさな出来事になる。

帰ってきた時:

興奮している犬にすぐ応答しない。犬が落ち着いてから挨拶する。帰宅の挨拶を大きくするほど、留守番中の「飼い主がいない時間」が強調される。

日常の中で:

飼い主がいる時間を常にべったりにしない。在宅ワークで一日中一緒にいる場合でも、犬がひとりでいる時間を意図的に作ることが大切だと思う。常に一緒にいることが「当たり前」になると、離れることが「異常」になる。

分離不安の前に作るもの

分離不安の「治療」を考える前に、この2つが犬に備わっているかを確認してほしい。

一つは、「飼い主は必ず戻ってくる」という経験の積み重ね。これは言葉では作れない。短い時間から、必ず戻ってくる、という実績を積み上げることでしか作れない。

もう一つは、神経系が整った状態でひとりでいる経験。不安な状態での練習は不安を強化する。「いい疲れ」の後にひとりでいる経験を繰り返すことで、「ひとりでいること=安全」という神経系の学習が起きる。何歳からでも、何年経ってからでも、神経系は変わる。

ひとりでいる時間を、ルーティンにする

「ひとりにしないようにしよう」と考える飼い主は多い。でもこれは逆効果になることがある。

分離不安の研究で繰り返し示されているのは、予測可能性が犬の神経系を安定させるという事実だ。Applied Animal Behaviour Science誌に掲載された論文は、離脱のサインを「隠す」より一貫した出発のルーティンを維持することを推奨している——予測可能な別れは「これはいつも通りのことだ」と犬の神経系に伝えるからだ(⁹)。定期的にひとりでいる経験がある犬は、そうでない犬より分離関連行動が少ないことも示されており、一貫したスケジュールを持つ動物はコルチゾール(ストレスホルモン)が低い傾向にあることも複数の研究で確認されている(¹⁰¹¹)。

毎日同じ時間に、同じ流れでひとりになる経験を積ませることが、最も有効な「練習」だと思っている。

ひとりでいる時間は、幸せの一部だ

「ひとりにするのはかわいそう」という感覚は、自然な感情だと思う。でも犬の福祉の観点では、少し違う見方がある。

分離不安のない犬は、ひとりでいる間のほとんどの時間を静かに休んで過ごしている。Rehn & Keeling(2011)の研究では、分離不安のない犬は留守番中のほとんどをじっと休息して過ごし、福祉が損なわれた行動的証拠は見られなかった(¹²)。むしろ「いつでも飼い主がいる状態」が当たり前になると、飼い主がいないことが「異常な状態」になっていく。犬が静かにひとりで休める時間は、その子の自律性と精神的健康にとって必要な時間だ。

ひとりでいられる犬は、弱い犬ではない。神経系が整った犬だ。

クレートは「閉じ込め部屋」ではない

クレートについて、誤解されていることがある。クレートは「罰の場所」でも「閉じ込めるための道具」でもない。正しく導入されたクレートは、犬にとって自分から入りたくなる安全地帯になる。Polyvagal理論でいう腹側迷走神経系が活性化した「安全の場所」として機能させることが目標だ(¹)。

そのための原則はシンプルだ。入ることを強制しない。閉じる前に犬が自発的に入るまで待つ。クレートの中で嫌なことをしない。食事やおやつをクレートの中で与えて、ポジティブな経験と結びつける。そしてクレートを「飼い主がいなくなるサイン」にしない——飼い主がいる間も、クレートで休む時間を日常の中に作る。

クレートがすでに怖い場所になってしまっている場合でも、ゼロから作り直すことはできる。神経系は新しい学習を上書きできる。時間はかかるが、方向さえ間違えなければ必ず変わる。

今の状況がどんな状況でも

在宅ワークで毎日一緒にいる、近所から苦情が来ている、獣医に薬を勧められた、クレートがうまくいかなかった、復職・引越しを前にしている——どんな状況でも、何歳の犬でも、まずその子と飼い主の関係性を一緒に整理することから始められると思っている。

Good Dayデザインは、その子の神経系の状態・犬種・生活環境・飼い主の関わり方をもとに「理想の1日」を設計するサービスだ。分離不安に限らず、「なんとなく落ち着かない」「散歩から帰っても興奮が続く」という犬にも対応している。神経系はいつからでも変わる。

オンライン90分・15,000円。

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参考文献 ¹ Porges, S. W. (2011). The Polyvagal Theory. W. W. Norton & Company. ⁶ Overall, K. L. et al. (2021). JAVMA, 259(10). ⁷ Gobbo, E., & Zupan, M. (2017). Frontiers in Psychology, 8, 2059. ⁸ Lenkei, R. et al. (2021). Scientific Reports, 11, 19207. ⁹ Appleby, D., & Pluijmakers, J. (2004). Applied Animal Behaviour Science. ¹⁰ Lucyshyn, J. et al. (2023). PMC. ¹¹ Animals (2021). doi:10.3390/ani11030769 ¹² Rehn, T., & Keeling, L. J. (2011). Applied Animal Behaviour Science, 129(2–4).

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